大判例

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東京高等裁判所 昭和26年(ナ)19号 判決

原告 有井長雄

被告 山梨県選挙管理委員会

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

二、事  実

原告は、「昭和二十六年四月二十三日に執行された山梨県北巨摩郡増富村村議会議員選挙について藤原凱雄が提起した当選の効力に関する訴願につき、被告委員会が昭和二十六年六月十五日にした裁決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めると申し立て、被告代理人は主文同旨の判決を求めた。

原告は、請求の原因として、次のように述べた。

一、昭和二十六年四月二十三日に執行された山梨県北巨摩郡増富村村議会議員選挙において、原告は、有効投票四十六票を得て、当選し、増富村選挙管理委員会(以下略して村委員会と呼ぶ。)は、直ちにその旨の告示をした。

二、右選挙において、有効投票四十五票を得たとして、次点となつた候補者藤原凱雄は、原告の当選の効力に関し異議を述べ、村委員会に異議の申立をしたが、右異議却下の決定がされたので、被告委員会に訴願を提起した。

三、被告委員会は、右訴願について、昭和二十六年六月十五日「村委員会が昭和二十六年四月二十三日執行の増富村村議会議員選挙に関し、藤原凱雄より提起された異議申立に対してした決定を取り消す。右選挙における最下位当選者は、候補者有井長雄(本訴原告)及び藤原凱雄につき決定すべきものとする。」との裁決をした。

四、右裁決の理由の要旨は、次のとおりである。

右の選挙において、無効と決定された投票のうちに「藤原ガンユウ」という投票(検甲第一号)が一票ある。

しかし(イ)藤原凱雄は、立候補届書中の候補者の氏名に、「フジハラガイユウ」と振仮名し、選挙長もその旨告示している。(ロ)村委員会の委員長及び委員三名は、藤原凱雄が「フジハラガイユウ」と呼ばれ、また、俗に「ガンユウ」と呼ぶ人もあることを認めている。(ハ)当該選挙における選挙長及び村委員会は、「藤原がんゆう」という投票二票(検甲第二及び第三号)及び「フジハラガンユウ」という投票一票(検甲第四号)をいずれも有効と判断している。

以上の事実から考えると、右検甲第一号の「藤原ガンユウ」は、選挙人が「藤原ガンユウ」と記載しようとして、「ガ」の濁点の一つを落したものと推察され、右は、候補者藤原凱雄への投票とみるべきである。

五、しかし、右の裁決は明らかに不当である。すなわち、

(イ)  当該選挙における候補者のうちには、藤原勘五郎という者があり、選挙人は、同人を「カンシユウ」「カンコウ」という通称で呼んでいる。従つて、右検甲第一号の「藤原ガンユウ」は、村委員会が決定したように、候補者の何人を記載したか確認し難いものであつて無効である。

(ロ)  そればかりでなく、右「藤原ガンユウ」の「ガ」の一点は極めて遠くに離れており、はたして選挙人が書いたものか、紙のすきむらかすら判明しない。

(ハ)  また被告委員会は、村委員会が「ガイユウ」を俗に「ガンユウ」と呼ぶ人もあることを認めているといつているが、そのような事実はない。従つて検甲第二及び第三号の「藤原がんゆう」の二票及び検甲第四号の「フジハラガンユウ」の一票も、発音、音読から云つて有効な投票とは認め難い。

原告は、他の四十二票が藤原凱雄の有効投票であることは争わないが、以上の次第であるから、被告委員会が、同候補者の得票数を、原告の得票数四十六票と同一であるとして、前記のように裁決したのは不当であつてその取消を求めるため本訴を提起した。

右原告の主張に対し、被告代理人は、次のように答えた。

一、二、三及び四の事実は認める。五の事実について、当該選挙における候補者中に、藤原勘五郎という者があつたことは認めるが、その余の事実は認めない。被告委員会の裁決は正当であつて、原告のいうような違法はない。(各証拠省略)

三、理  由

検甲第一ないし第四号の投票の効力に関する部分を除いて、原告主張の事実は全部当事者間に争がない。よつて本件における唯一の争点である右四票の投票の効力について、先ず、検甲第二ないし第四号、次いで検甲第一号の順序で、これを判断する。

一、検甲第二ないし第四号の投票について。

右投票には「藤原がんゆう」(検甲第二及び第三号)及び「フジハラガンユウ」(検甲第四号)と記載されている。

本件選挙における候補者藤原凱雄が、立候補届書中の候補者の氏名に「フジハラガイユウ」と振仮名し、選挙長もその旨を告示したことは、前記認定のとおりであるが、右候補者の名「凱雄」又は「ガイユウ」が、あやまつて、又は発音上なまつて、「ガンユウ」と呼ばれることは、極めてあり得ることであり、その成立に争のない乙第四号証及び第五号証によつても、同地方における人々が「凱雄」を俗に「ガンユウ」と読み、又は「ガイユウ」を聞きかじつて「ガンユウ」といつている者があることを認めることができる。して見れば、「投票の効力の決定に当つては、(中略)その投票した選挙人の意思が明白であれば、その投票を有効とするようにしなければならない」という公職選挙法第六十七条の精神にかんがみ、右検甲第二、三、四号の三つの投票は、藤原凱雄の投票として有効なものと解すべきである。

二、検甲第一号の投票について。

右検甲第一号の候補者の氏名欄の記載は、一見すると「藤原ガンユウ」と鉛筆で書かれているようであるが、これをしさいに調べて見ると、「ガ」の右肩の点は、鉛筆で書かれたものではなく、投票用紙の表面に製紙原料中に混つていた暗色の細片が丁度鉛筆で書いた点のように少さく残つているものであつて、右投票における候補者氏名の記載は、「藤原カンユウ」であることを認定することができる。よつて右の認定のもとに、その投票の効力を判断するに、「藤原がんゆう」(検甲第二及び第三号)及び「フジハラガンユウ」(検甲第四号)の投票が、藤原凱雄の投票として有効なものと解すべきことは、前段に説明したとおりであるから、「ガ」の濁点を落して「カ」としたにすぎない「藤原カンユウ」の投票もまた、他に特別の事情がない限り、選挙人の意思は、「フジハラガンユウ」におけると同様、藤原凱雄に投票するにあつたものと解し、同人の投票として有効と認めるべきである。この点について、同選挙における候補者のうちに、藤原勘五郎という者があつたことは、前記認定のとおりであるから、同人との関係において考察しなければならない。

その成立に争のない乙第三号証によれば、右選挙の告示において、右候補者の氏名には、「フジハラカンゴロー」と振仮名せられ、また、その成立に争のない甲第二号証によれば、同地方において、同人を俗に「カンシユウ」又は「カンコウ」と呼称するものがあることも認められないではない。しかし、すでに藤原凱雄が、「フジハラガンユウ」と呼ばれていることが前述のとおりであり、かつ、検甲第一号には、「カンユウ」の「ユ」の字が、「コ」の字と読み違えるおそれが全くないほどはつきり「ユ」と記載されていることを認めることができるから、右検甲第一号の投票における選挙人の意思は、藤原凱雄を記載したものであることは明白であつて、これをもつて、村委員会が決定したように「候補者の何人を記載したかを確定し難いもの」とするのは、不当といわなければならない。

以上争点となつた四票の投票は、いずれも候補者藤原凱雄の投票と解すべきことは、右に説明したとおりであるから、これに原告の自認する藤原凱雄の有効投票四十二票を合算すれば、同人の得票数は、原告の得票数と同一になり、同様の結論のもとに、村委員会の決定を取り消し、右選挙における最下位当選者は、候補者である原告及び藤原凱雄について決定すべきものとした被告委員会の裁決は、結局正当に帰するから、原告の本訴請求は、理由がないものとして棄却すべく、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用して主文のように判決した。

(裁判官 中島登喜治 小堀保 原増司)

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